時間とはなにか

       地上の速度
 地上における物体の速度は、観測する人の位置によって異なります。100Km/hで走るクルマAを80Km/hで並走するクルマBから観測すると、Aの速度はBの速度の分だけ遅くみえます。AとBが互いに逆方向に走るなら、AはBの速度を加えたスピードで遠ざかるように感じるはずです。

光の速度
 光はあまりにも身近なので、日常 その性質を特に意識することはありません。しかし物理学では光の性質に関する興味深い研究がなされています。重力の影響が無く、運動の方向・速度が同じならば、光の速度は誰から見ても一定であることが解っています。300Km/h走っているクルマが発するヘッドライトの光線の速度は、停止しているクルマが発する光線の速度と同じということです。光速は、音速のように温度や風速等の影響を受けることがない自然法則だからです。




光と時間
  1905年、アルバート・アインシュタインは『特殊相対性理論』のなかで、「光の速度が一定となるよう、時間が遅れ空間が縮む」と述べています。どんな速度で移動しても光の速度が不変だとすると、速度が光速に近づくほど運動する物体の時間が遅れることになります。私たちに身近なジェット旅客機でもそれは起きています。二つの同じ原子時計を、地上と1000Km/hで飛ぶジェット機上とで約10時間にわたって同時に計時すると、1秒につき1億分の2秒ほど時間が遅れることが観測されるのです。

重力と時間
 重力によっても時間が遅れます。下図のように、空間に物体が存在するだけで空間が歪み重力が生まれます。重力の逆方向に移動する光の速度は遅くなり、時間が遅れてみえるのです。太陽の表面付近の重力では、1秒あたり約100万分の1秒遅くなります。



 熱力学の法則
 熱力学は、広くエネルギーに関する学問を表す言葉です。熱力学の第1法則は、「どのような過程においてもエネルギーの総量は保存される」というエネルギー保存に関する法則です。第2法則は、「そのエネルギーは不可逆な仕方で変化する」と定義されるエントロピー増大の法則です。熱いものは冷めるが、冷たいものは自然には熱くならないし、テーブルから落ち割れて飛び散ったコップは、いくら待っても自然にテーブルの上に飛び上がって元の形に戻ることはありません。自然には非対称性が存在し、エネルギー分布の乱雑さ(エントロピー)は常に増大する傾向にあるのです。


時間の矢
 私たちは、時間が過去から未来へと一方向にしか流れないように感じます。このような時間の流れの向きを物理学では「時間の矢」とよびます。1985年、スティーブン・ホーキングが時間に関する論文を発表し、時間の矢にはいくつかの種類があると述べています。
 第1は「熱力学の矢」です。自然は非対称的であり、崖から落ちた岩が自然には元の場所に戻らないように、この世で起こることは全て乱雑さが増大する方向に起きるのです。19世紀にボルツマンは、
膨大な数の分子が運動する確率を計算し、分子の運動は秩序が大きくなるよりも、乱雑となるほうが起こりやすいことを発見していました。
 第2は「心理的な矢」です。心理的な矢は、私たちが未来と感じる方向を向いているといいます。私たちは未来のことは知りませんが、過去のことは覚えています。したがって、記憶が増えていく方向を心理的な矢と定義します。「記憶が増えていく」とは、脳内の化学的・電気的なエントロピーが増大することです。記憶が増える方向は心理的な矢の向きであり、心理的な矢の向きは熱力学的な矢の向きと一致しているといえるでしょう。
 第3の矢は「宇宙論の矢」で、宇宙が膨張する方向を向いています。しかし、なぜ無秩序の増大していく時間の方向は、宇宙の膨張していく時間の方向と同じなのでしょうか。なぜ私たちが過去と呼ぶほうでは、宇宙は秩序の大きい状態になければならなかったのでしょうか。なぜ熱力学的な時間の矢と宇宙論的な時間の矢が同じ方向を指していると観測するのでしょうか。
 大きさは有限だが境界、縁あるいは特異点をもたない宇宙を考えてみましょう。このような宇宙では、物理学の法則が意味を為さなくなる特別な状態や、科学者が知らないことを決めねばならない困難を避けることができるといいます。この量子重力論の無境界説によれば、宇宙は秩序ある状態から膨張を始めます。ごく初期にはインフレーション的に膨張しますが、崩壊を避けられる臨界速度に近い速度で長い期間、膨張を続け無秩序が増大します。こうした熱力学的な無秩序が増大していく条件の下でだけ、人類が存在できます。なぜなら人間という生命が生きるには、食料を消費しなければなりません。食料は秩序あるかたちのエネルギーであり、それを無秩序なかたちのエネルギーである熱に変えて活動するのです。このようなタイプの生命は、熱力学的な矢が支配する宇宙でのみ生存可能で、永い年月をかけて進化し、熱力学的な時間の矢と宇宙論的な時間の矢の方向が一致すると観測することができるまでになるのです。
        
        時間順序保護仮説
 時間を超えて過去や未来へ旅することは、誰もが抱く夢でしょう。1985年、イギリスの小説家H..ウェルズは『タイム・マシン』を発表しました。主人公は80万年後の未来へ旅をします。未来へのタイムトラベルは、アインシュタインの相対論によれば可能です。上記「光と時間」の項で、速く移動すると時間が遅れるという話がでてきました。技術が進歩して光速の99.99%まで加速できるロケットが造られたとしましょう。その宇宙船で20年の飛行をして帰還すると、地球では2000年以上の時が過ぎていることになります。
 では、過去への旅はどうでしょうか?この問題は、さらなる観測と理論の完成を待たねばならないようです。
               最近の時間理論
         ・・・下書き中






時間の図書館


①『タイム・マシン』         H.G.ウェルズ       角川文庫

 「わたしは、80万年後の世界から帰ってきたばかりだ...」 ペシミスティックな未来観が漂う、タイムトラベルの古典。



②『永遠の淵に立つ都市』       J.ブリッシュ       早川文庫

 宇宙大作戦シリーズ「謎の精神寄生体」に収められているエピソード。‘時の門’から過去に飛び込んでしまった男が、歴史の焦点となる過去の人物に影響を与えて未来を変えてしまうのを防ごうとする悲劇。TV版がエミー賞を受賞。



③『マイナス・ゼロ』         広瀬 正         集英社文庫

 太平洋戦争下の少年時代にタイム・スリップする、日本のSFの記念碑的作品。



④『白壁の緑の扉』          H.G.ウェルズ       国書刊行会

 H.L.ボルヘスが編纂に携わった「バベルの図書館」シリーズの一冊。表題作はタイムトラベルものではないが、取り戻せない時への嘆きを描いた寓話的作品。



⑤『時間順序保護仮説』        S.W.ホーキング      NTT出版

 ホーキングのタイム・トラベル論。



⑥『ホーキング、宇宙を語る』     S.W.ホーキング      早川書房

 哲学界にまで影響を与えている、ホーキングの宇宙論。



⑦『時空の本質』         S.W.ホーキング&R.ペンローズ  早川書房

 量子宇宙論でみる時空。



⑧『エントロピーと秩序』      P.W.アトキンス       日経サイエンス社

 熱力学第二法則をめぐるエネルギーとテクノロジーとの関わりを解説。







参考文献


Ⅰ.『エントロピーと秩序』         P.W.アトキンス     日経サイエンス社

Ⅱ.『時間順序保護仮説』        S.W.ホーキング      NTT出版

Ⅲ.『ホーキング、宇宙を語る』     S.W.ホーキング     早川書房

Ⅳ.『Newton ニュートン(1992.11月号)』          ニュートン プレス社

Ⅴ.『Newton ニュートン(1992. 5月号)』          ニュートン プレス社

Ⅵ. 『エデンの恐竜』                カール・セーガン       秀潤社



 このブログは、いくつかの興味ある事柄のなかから、『時間』という身近でありながら捕らえどころのない事象について、私自身が書物を漁り驚嘆したことをご紹介するために記述しました。





       


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